【第27回】「かかりつけ医」と連携をとりながら地域医療に貢献
日本大学医学部 昭和53年卒業
大学院医学研究科 昭和57年修了
JCHO横浜中央病院 病院長・付属看護専門学校校長
日本大学客員教授 藤田 宜是(タカユキ)氏
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- 2014年にそれまでの社会保険病院から新たに独立行政法人として地域医療を担う病院として再出発した横浜中央病院。いまや当病院の地域医療貢献の仕組みを学ぼうと全国から視察希望が殺到しているという。昨年、病院長に就任された藤田宜是氏にお話しを伺いました。
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横浜中央病院 |
- 医師を志した理由について聞かせていただけますか。
- 私が小学生か中学生だった頃、「ベン・ケーシー」というテレビドラマをやっていました。脳神経外科医の主人公が、普通では助からないような状態の患者を助ける番組を見て、医者に憧れを抱いたのがきっかけです。医学部は難関でしたが、それだけに頑張りがいがあると一浪して日大医学部に入学することができました。当時、父は日大の文理学部で教鞭をとっていて、農獣医学部や日大高校にも出向いて国文学を教えていました。分野は違いますが、期せずして親子で日本大学に通うことになりました。
- ご卒業後は?
- 腎臓内科の臨床医になろうと大学院に進み、その後、日大板橋病院で診療と臨床研究を続けました。臨床研究は病人を対象として行われ、医療の限界に挑む研究といえます。
臨床の現場では、重病患者さんの治療を精一杯やったけれども、もうこの患者さんを助けるのは無理だという場合があります。私は学生時代から、何事も一所懸命に努力すれば必ず何とかなるという信念で、ずっと頑張ってきました。それだけに、こうした事態に直面し、すごい挫折感を味わいました。これだけ頑張ってきたにもかかわらず、なぜこの人を助けられないのか、と思うととても悲しくなりました。
もしもこの難題が解決できれば、患者さんは助かるのにと思うのですが、解決できないから救えない。解決できるためにはどうするかというと、研究しかないと思いました。そして国内外の色々な論文を読みました。ある論文には人間には適用できないが、動物ならばこうやったら治るということが書いてあったりする。さらに別の外国の論文を探し調べてみると、ある国では、その方法を人間にも適用して上手くいっているということが出ていたりするのです。
そんな時に大学病院では、新治療法の必要性を書いた申請書を提出し、認められれば治療できたのです。その治療法の失敗率と成功率を患者さんに伝えて「どうですか、一週間考えて下さい」と検討していただきます。それで患者さんが「やりません」と言えば、「じゃ、なかったことにして今まで通りに全力をつくします」。もし「お願いします」となれば、「じゃ、頑張ってやりましょう。でも途中で嫌になったら言って下さいね。止めますから」という感じで進めていくのです。
そうやって治療し、多くの患者さんが治るようになると、数年後には全国で当然のようにして皆がこの治療をするようになります。そういう可能性にチャレンジするのが好きだったのです。
- 大学病院で研究を続けられたのですね。
- 実は昨年3月まで日大病院にいて、2014年からは教授として腎臓内科を担当し、多くの成果を出してきました。今後も大学で研究者として頑張ろうと思っていたのですが、ある日、医学部長から当病院の院長への推薦の話をいただきました。突然の話で迷いましたが、病院の管理運営に目を向けたところ、結構大変な仕事だということがわかり、やる気が湧いてきました。ちょうど、いままでやってきた研究が、一区切りついたところでもあったので、それではやってみようか、ということで、こちらに移ってきました。
- これまでの臨床研究とはずいぶん勝手が違いますか。
- 病院長の仕事は第一に病院を円滑に運営することでした。これまでいかに沢山の論文を書いていたとしても、病院のマネジメントができなければダメです。横浜中央病院は、厚生労働省主導で設立された独立行政法人地域医療機能推進機構(Japan Community Health care Organization :略称JCHO)の病院群の一つです。JCHOの目的は地域医療に貢献することです。
これまでの病院では、一般開業医では治せない難しい病気に対処する役割を担っていました。ところが一般には、そんな難病で受診する人はほんの一部。大半の人は風邪を引いたり、お腹が痛くなったりとかです。そのような方は高度な医療施設の整った病院ではなく、開業医のところに行ってくださいといわれていました。年を取り寝たきりになってから点滴のため、身体にいろいろなチューブを入れられて病院で亡くなるよりも自分の家の畳の上で死にたい。これは昔から平和なことの象徴だったと思います。今後はそういう方向性を大切にしようというのがJCHOの提唱する在宅医療です。
けれども、自宅である日突然冷たくなってしまったというのでは困りますね。医者は死亡診断書を書かなければいけません。在宅といってもやはり何かしら医療機関が関わっていなければ困ります。開業医の先生に全てお任せしようといっても、開業医の先生だって診療所で患者さんが順番待ちしている状態のなかで、容態が急変したから来てくれといわれても、そう簡単に動ける状況にはありません。そこで、病状が悪化した患者さんを受け入れる施設を確保することが急務となってきたのです。
しかし医療現場では治療効果が劇的な急性期医療に携わりたい医療従事者が多く、病院も経営を考えながら運営しています。つまり赤字は出さないように運営したい。例えば患者さんを看取るだけというとハッキリ言えば診療費は掛からない。注射もしないですし、薬も飲まず、ただ寝ているだけです。そうなると経営的に赤字になってしまうのではという危惧があって、多くの民間病院ではこの方針についていけません。国の政策にもかかわらず民間の施設が対応に二の足を踏んでいる。そこでJCHOは組織を挙げて、この方針に協力することにしたのです。
ところが私達の病院は急性期医療を中心に扱っている病院です。急な方向転換はできません。私も性分として、仕方なくやらされているというのは嫌いです。そこで国の政策として仕方なくやるのではなく、率先してその使命を果たしていきたい。そしてやる以上は、経済的にもしっかり成果が上がるように運営したい。それができれば、他の病院も皆、追随するようになる、と思いました。
驚いたことに、実際に始めてみたら、職員の各部門間の連携により非常に上手くいきました。当院では昨年から50床を地域医療に当てていましたが、もう当初の目標に到達してしまいました。
- さらに横浜中央病院ならではの特色をお聞かせいただけますか。
- 当病院では地域の開業医、いわゆる「かかりつけ医」の先生と顔の見える親密な連携を取っています。先生から「患者さんのお腹が痛いと言っているんだけど」という連絡が入ったら、すぐ連れてきてもらって診察し「じゃ2〜3日入院して様子をみようか」という対応をとっているので、患者さんも開業医の先生も安心です。こちらでも他の病院に、たらい回しにすることはありません。よほど大勢の紹介患者さんが一度に来院されたら別ですけど、1日10人位ならば困らないようになっています。
今ではもっと進んで登録制度を構築しました。これは普段、診てくれている開業医の先生とカルテを共有し、3カ月に1回、話し合いをして内容をチェックしています。そうすると、万が一具合が悪くなった時にもすぐ治療が開始できる。これこそが本当の在宅医療ではないでしょうか。それだけのフォローができていれば、開業している先生は安心なのです。
さらに訪問看護ステーションといって当院の看護師が定期的に在宅の患者さんを訪問して看護を行っています。一般病棟、特殊病棟、自宅のどこであってもやっている医療の質は同程度にしようということで、この仕組みをつくりました。自宅に居る時は、我々は行けないから開業医の先生にお願いし、普段患者さんの具合を診るのは当院の看護師、具合次第で夜中でも訪問します。それから必要な薬は近所の薬局が出す、というかたちをとれば、場所は病院でなくても医療の質を落とさなくて済みます。
もし当院では治せない重症の場合は、こちらで全責任をもって紹介転移先を確保します。患者さんには「いったんここに入院してもらうけど、病状によっては次に別の病院に行くかもしれないよ」と話し、高度医療との連携も確保されたシステムを運用しています。
- 万全のフォロー体制をつくられているのですね。
- この仕組みを学びたいと、大体週1回の割合で全国の施設から視察に来られます。担当の看護師が院内を説明して歩くのですが、この対応だけで大変です。これに関する講演依頼もあって、看護部長はあちこちに行っています。
- 校友会、同窓会に参加されて感じていることは?
- 医学部だと同窓会、大学全体だと校友会と言いますね。私は、いままで大学内部にいたからよくわかりませんでしたが、とくに大学を離れてから、非常に大事だと思うようになりました。私の気持ちとしたら、校友会は砂漠のオアシスといった感じです。
どういうことかというと、大学を卒業してから、それぞれが自分の思い思いの道を歩みます。でもある時、一休みしたい時に仲間が欲しいという気持ちが出てきます。その時には、やはりオアシスが必要です。校友会に参加するとさまざまな違う道から来た人たちがいて、彼らと交流することによって、今までの自分の疲れが取れ、「よし、明日からまた頑張るぞ」という気持ちが生まれてきます。
他の人たちの話を聞いて、自分もその方向へ転換しようという人が出るかもしれない。校友会はそういう人たちを助けるところでもあるし、励ますところでもあり、もしかしたら一緒にやろうというパートナーが見つかるかもしれない。いろんな意味で出会いの場、オアシスであり、人生の道の駅だと思っています。
ですから、まだ参加したことのない人は、まず校友会の存在を知って欲しいと思います。我々はそういう人たちのために、「お前は初めてだから新参者だ」とか、「一見さんお断り」ということはなく、いつも「どうぞいらっしゃい」という気持ちで接するのがいいのではないかと思います。そのためにも校友会活動がこれからも続いていくことが大事ですね。
- 訪問を終えて
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横浜中央病院は今年設立68年目を迎えます。年齢の高い校友には、日活映画『霧笛が俺を呼んでいる』で、当時まだ新人女優だった吉永小百合がこの病院の入院患者だったシーンを憶えている方もいるのではないかと思います。横浜市中区周辺にお住まいの校友で介護のご家族がいらっしゃる方は、ぜひ横浜中央病院の「訪問介護ステーション」をお薦めします。 |
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病院紹介
JCHO横浜中央病院 |
住所 |
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横浜市中区山下町268番地 |
TEL |
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045-641-1921(代表) |
ホームページ |
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