ホーム活躍するOB・OGたち  第12回

第12回 厚木名物「とん漬」の元祖。選りすぐりの肉に秘伝の味噌をていねいに塗り、じっくり漬け込んでいます。

農獣医学部獣医学科(現・生物資源科学部獣医学科)昭和40年卒業
株式会社波多野商店 取締役社長 波多野博之氏

厚木名物といえばシロコロを思い浮かべる方も多いと思いますが、もう一つの名物として知られるのが「とん漬」。厚木には「あつぎとん漬のれん会」という団体まである位に「とん漬」がメジャーな存在です。今回登場する波多野博之氏の経営する波多野商店は、今年創業90年を迎える「とん漬」の元祖。その波多野氏に学生時代の思い出から、店の沿革、「とん漬」のエピソードまで縦横無尽に語っていただきました。

学生時代はどんなことをやっていましたか?

私は家業の波多野商店を継ぐつもりで日大農獣医学部に入りました。日大に進んだ理由は、そもそも獣医学を学べる大学が少ないことに加えて、亡くなった叔父が農獣医学部の前身の一つだった東京獣医畜産大学出身だったということもありますね。在学中は4年間、三軒茶屋に通っていました。元総長の酒井君とは同級生で、彼は学生時代にウチに遊びにきましたよ。あの彼が日大総長になるとは思いませんでしたねえ。当時、私は農獣医学部の柔道部に所属し、柔道に明け暮れる日々を送っていました。ちなみに第9回で登場した堀川網の葉山さんは柔道部の後輩です。私は小学生のころから柔道をやっていたので、大学入学時点ですでに三段を持っていました。3年時には主将を務め、在学中に四段まで昇段しました。卒業後しばらく経ってから、酒井元総長が柔道部顧問を、私が師範を務めたことがありました。その後、仕事の方が忙しくなってしまい、師範は引退しましたけれど。
まだ学生だった昭和40年代に、経営者だった母の決断で新宿駅西口に出店したことがありました。そのため当時、大学に通いながら兄と二人で新宿に出したこの店を切盛りしました。仕事が結構忙しくて、休みが全く取れませんでしたね。

大学卒業後はどうされたのでしょうか。

卒業後もしばらく新宿の店を切盛りしていたのですが、その後、母から「お前は店を継ぐのだから、外で修業して来なさい」と言われ、1年間、山梨の塩山にある肉屋に見習いに行かされました。それまで包丁など持ったこともなかったのですが、そこで初めて包丁を握り、肉のさばき方を教わりました。
なぜ山梨かというと、山梨は商売が厳しいところだからそこで勉強してこいという母の意向によるものでした。

波多野商店は老舗ですね。創業の由来をお聞かせいただけませんか?

当店は、厚木の名産品といわれる「とん漬け」を製造・販売しています。ちょうど今年で創業90年を迎えました。大正12年に祖父・元正が創業し、父が早く亡くなったため、母が後を継ぎ、私は三代目になります。
祖父は早くから豚の改良に取り組み、大正10年に平塚で開かれた博覧会にサツマイモで育てた中型のヨークシャーを種豚として出品、最優秀になったという研究家でした。この豚は高座豚といわれ、横浜に送られ、外人客から好評を得たそうです。
祖父はやがて日本人も必ず豚肉を食べるようになると見込み、これまでの養豚業を他の人にまかせ、大正12年の暮れ、本店のある東町に食肉店を開業したのです。大山参りの人々に土産品として販売したのがこの店の始まりです。
祖父は戦後の混乱した経済の中で、厚木の商工業を発展させるべく商工会議所を設立し、初代会頭になりました。ヤミ金融で苦しむ中小企業のためにと厚木信用協同組合を創設し、初代理事長に推されるなど、厚木の発展に力を注ぎ、昭和30年の市制施行後には初代市長に当選するなど厚木の基盤をつくったといってもいいかもしれません。

「とん漬」についてご紹介いただけますか。

昔、荻野村にあった山中藩で武士たちの会合があったそうです。ところが大勢の客がきたので料理が不足し、思案にくれた勝手方がシシの肉に味噌を塗り、そのまま焼いて食膳に出したところ、四ツ足の肉を食べなかった武士たちが「うまい、うまい」と食べた、という古老の話を祖父が耳にし、これをヒントに研究してつくったのが、この「とん漬」です。 当店の「とん漬」は選りすぐりの豚肉ロースを使っています。その肉をもがいて切ったものを一晩味噌に漬け込むと味がつき、臭みがなくなります。それを次の日もう一度味噌を塗り直して商品にするのです。使用している味噌は、数種類の味噌をブレンドし、砂糖とみりんを加えて煮詰めたものです。黒々としていますが、見た目ほどは辛くないです。肉も柔らかいですよ。食べ方としては、魚を焼くグリルで焼くと一番美味しくいただけます。フライパンでもホイルでもいいですけど、汚れるのが嫌だったらホイルで焼くのがいいですね。 保存期間は冷蔵庫に入れて大体一週間です。冷凍はあまりお勧めしていません。家庭の冷蔵庫だとどうしても何度も開けたり閉めたりするので温度が一定しないからです。でも、どうしてもというのであれば、一枚ずつラップに包んでもらえればと思います。


味噌の仕込み
同じ状態で仕上げるのが難しい


肉に味噌を塗っている


「とん漬」

仕事でご苦労されていることは

一番苦労しているのは、毎日味噌を炊いていても原料にばらつきがあったり、温度や湿度が違うので、同じ品質に仕上げるのが結構大変だということですね。そこに気を使います。材料も同じようにこないですよ。火加減とかの調節にも苦労します。
あとは一年間を通じて売り上げにばらつきがあることでしょうか。お中元とお歳暮の時期が結構忙しいです。特に12月はお歳暮と帰省のお土産としてお買い求めになる方が重なり、一年の中でピークになりますね。最近は、配送を希望する方が増えてきました。

校友会に参加されて感じていることは

厚木桜門会には知人から誘われて参加しました。長年厚木市内に住んでいながら、これまで知らなかったいろいろな方と出会えて、かなり交友関係が広がりましたね。

今後に向けてなにかありましたら

もうすぐ70歳ですので、この仕事ができるのはあと2~3年くらいかもしれません。後継者がいないのが目下の悩みです。

訪問を終えて

「とん漬」は白いご飯との相性が抜群です。一緒に食べると思わずご飯を食べ過ぎてしまいます。後継者がいないのが目下の悩みとのことですが、この美味しい「とん漬」がいつまでも食べ続けられるよう、お店を絶やさず、ぜひ長く続けて欲しいと強く願っています。

店舗紹介

株式会社波多野商店
URL : http://www.tonduke.jp


本店


住所 : 厚木市東町6-16
TEL : 046-221-0068
FAX : 046-221-2805
営業時間 : 10:00~18:00
定休日 : 月曜日


小田急線本厚木駅前店


住所 : 厚木市中町2-3-1
TEL : 046-221-0225
営業時間 : 10:00~18:00
定休日 : 日曜日

活躍するOB・OGたち一覧へ