ホーム活躍するOB・OGたち  第22回

第22回 目指すは文武両道。部活で頑張った体験が人間力を培う

文理学部体育学科 昭和53年卒業
神奈川県立横浜平沼高等学校 校長 小野 力先生
公益財団法人 全国高等学校体育連盟会長

本学文理学部は、旧高等師範科以来、教育界に数多くの校友を輩出しています。そこで今回は、神奈川県立平沼高等学校校長にして公益財団法人全国高等学校体育連盟(高体連)会長でもある小野力先生に登場いただき、これまでのご自身の足跡や教育への想いについてお話しいただきました。


校舎棟の正面玄関


通称シンデレラ階段といわれる生徒用階段

進路はどのように決めて進みましたか?

私は鶴見で生まれ、5歳の時、泉区(当時戸塚区)の中田に引っ越してきました。
中学は地元の中和田中学に入学し、陸上部で3年間長距離の選手でした。この時、顧問の先生の指導で横浜市中学校駅伝大会で優勝したのです。高校は現在勤務している横浜平沼高校(71期)に進学し、引き続き陸上部に所属しました。そんなことから中学、高校生の頃から、将来は体育の教員になろうと思っていました。それで文理学部体育学科に進んだのです。


横浜平沼高校 校章


五線譜をイメージした正門

どんな学生時代を過ごしたのですか。

大学でも陸上をやりたかったのですが、高校での競技歴が高くないことから、入学して、すぐに文理空手部に入部したのですが、ちょっとトラブルがあって1年で退部し、2年の時に「日本大学レクリエーション研究室」というサークルを立ち上げました。このサークルでは、日本体育協会や日本レクリエーション協会の公認資格であるスポーツ指導員、フォークダンスやオリエンテーリング指導員などの資格を取得しながら、ボランティア活動、キャンプ場の指導・管理、企業の社内運動会の運営を手伝ったりしていました。そんなことをしているうちに教員採用試験に受かったのです。

卒業後の進路は?

最初の配属先は学校現場ではなく、県立野外教育センター(現・愛川ふれあいの村)でした。私は指導員として最盛期には3日に1回、キャンプファイヤーをやっていました。野外教育センターの2泊3日のプログラムには、県内の小中高校生が学校単位で参加してきます。私は、この子たちにオリエンテーションや野外でのゲームやアクティビティを指導したり、キャンプファイヤーやゲーム指導をやりました。2泊3日の勝負ですから、どこで笑いを取り、どこで惹き付けて、最後のキャンプファイヤーで泣かせるか、いつも腐心していました。そんなことを日々やっていたので、今でもレクリエーション指導の依頼があり、県立看護福祉大学看護実践教育センターの実技指導者養成講座の講師を何年もやっています。
そこに5年間務めた後、大船高校の保健体育科の教員として初めて教育の現場に立ちました。昭和58年のことです。この年は神奈川100校計画の真最中で、県立高校17校が同時開校したのですが、その1校が大船高校でした。教員は憧れの職業だったので一所懸命やりました。顧問を務めた陸上部はマイルリレーで南関東大会に出場し7位になりました。当時の部員は今では皆、結婚して子供もいますが、卒業以来毎年正月に集まっては、決まって関東大会の時の話が出るのです。あの時のビデオを見ながら話しているうちに皆、悔しくて泣けてくるのです。神戸インターハイに行きたかったですね。大船高校には6年間勤務しました。あの頃は教員も皆若かったし、開校したばかりで学校を作り上げようとする勢いがありました。大切な思い出です。

熱血先生ぶりがうかがえます。

平成元年4月に教育庁指導部体育課(平成4年にスポーツ課に名称変更)に異動しいわゆる社会体育を担当し、そこに12年間在籍しました。主に県民総合体育大会やスポーツ団体育成、平成10年に開催した「かながわ・ゆめ国体」に向けた選手強化や、国体終了後のポスト国体計画策定などに関わった後、荏田高校に赴任しました。荏田高校ではバレー部と野球部の顧問を務め、2年間でしたが、初めて高校野球の世界を垣間見るなど、印象深い思い出がありました。
その後、平成15年の関東ブロック大会の準備要員として県の体育協会に出向し、国体の選手強化(競技団体の指導育成)を担当した後、追浜高校の定時制に教頭として転任しました。ちょうど定時制の生徒が増加し始めた頃のことです。夕方生徒が登校してくると、「おはよう」と声をかけるのが習慣でした。昔のように苦学生は少なくなり、全日制に行きたくても定員から溢れて行けない生徒が定時制を受験するようになってきたからです。定時制の子たちは、早朝や夜中にアルバイトをしていたりする生徒もいて、生きる力のある生徒が多かったですね。午後5時半に登校し、給食を食べたあと9時まで授業があり、その後部活動もありました。あの頃、私は毎晩10時過ぎに学校を出て帰宅していました。教頭だったので担任は持ちませんでしたが、スキー教室やキャンプ教室に参加して楽しく過ごしました。異動後もキャンプファイヤーの指導をやりに行きましたね。

生徒との交流に力を入れたのですね。

次の2年間は、教育委員会で児童生徒指導室の室長代理を務めました。事故や自殺、万引きなど、いろいろな問題が起きた学校に行き、校長や教頭、学校職員とともに事案の早期解決のお手伝いをする仕事をやりました。この時期にいじめや暴力をなくし、子供たちが自分の気持ちを素直に表現する力や相手を思いやる気持ちを育む「ファミリー・コミュニケーション運動」を立ち上げました。毎月第1日曜日をファミリー・コミュニケーションの日として定め、企業から協賛金を集めてポスターを作り、県内の博物館や美術館、動物園の他、ファミリーレストランやボウリング場などの優待券をポスターと一緒に作成し配布するようにしました。この運動は今でも続いています。
その次の1年間は、永谷高校の校長を務めました。毎朝の登校時には校門に立って生徒たちに声を掛ける「あいさつ運動」をしました。まずは、自分の学校に誇りを持って高校生活を送るよう、生徒の遅刻、頭髪や服装の乱れなど生活指導に力を入れました。また、当時地域のコンビニに生徒が集まって迷惑をかけることがあったので、事故防止の観点から「コンビニ連絡協議会」を立ち上げ、警察の指導を受けながら学校と地域の連携を図りました。
その後、教育委員会の保健体育課の課長を2年間務めました。ここで私は、企業を数十社集めて「企業等連絡協議会」を設立し、企業のCSRの一環として子供たちに企業の施設を利用した活動や実業団チームの監督、コーチ、選手を講師とした部活動の講習会を開催したりする活動を始めました。

そして現在に至るわけですか。

母校の平沼高校に来て3年目になります。校風は私が高校生だった当時とあまり変わらないですね。本校の前身は横浜第一高等女学校で、女優の岸恵子さんや小説家の安西篤子さん、お茶ノ水女子大の学長など錚々たる人材を輩出しました。戦後、共学になりましたが、元々女学校だったため、いまでも男女比率は3対7で女子が多いです。生徒はとても真面目です。現在の教育目標は「人間性豊かで創造力に富み、指導的な役割を果たせる人間を育成する」です。今気なることは、人より何か先にやることに対して気を遣い過ぎる生徒が多いような気がします。文化祭でも体育祭でも率先して「私がやる・俺がやる」位のつもりで、もっと積極的に取り組んで欲しいものです。
昔は陸上部、女子バスケット部などが強く、インターハイに出場していました。今は女子ハンドボール部が強くなり、今年も3月に全国選抜大会に出場します。弓道も強く、県内で唯一、室内弓道場があります。部活よりもっと進学に力を入れて勉強したほうがいいという意見もありますが、それでは人間力は育ちません。部活を通して、人間関係を学んだり、辛い練習に耐え、苦しいことも頑張り抜くことで耐性や集中力が培われ、人間として成長するのです。こうした体験あっての勉強なのではないでしょうか。私の方針としては、文武両道でやっていきたい。高校生は部活がなかったら意味がないですよ。卒業して同窓会や同期会もあるけれど、しょっちゅう集まって連絡を取り合うのは、青春のある時期、一番人生を濃く、辛い思いも一緒に過ごした、部活をやっていた仲間だよ、と生徒に言って部活を勧誘しているのだけど‥‥。吹奏楽、オーケストラ、演劇といった文化部の加入率に比べて運動部の加入率が低いのが残念です。今はダンス部が一番人気です。初心者でも始める事ができるし、踊ることは楽しいですからね。


歴史資料展示室には、明治33年創立の同校の歩みが多くの資料を通して学ぶことができる。

これからやりたいことをお話し下さい。

今一番頭が痛いのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピック大会の年にインターハイの開催メドが立っていないということです。前回の東京オリンピックは10月10日が開会式でしたが、次回は放映権の関係で、会期が7月中旬から8月上旬のため、インターハイの開催時期と被ってしまうのです。今開催に向けて調整をしています。 あとは部活の活性化ですね。かつて高校生は全国に500万人いたのですが、この20年で300万人に減少しました。500万人だった頃、部活に所属していた子は160万人いましたが、現在では、それが120万人に減少しています。加入率は上がっているのですが、登録者は確実に減少しているのです。一人でも多くの高校生が部活に入り、充実した高校生活と卒業後のつながりを大切にして欲しいということを念頭において、これからもいろいろとやっていきます。

訪問を終えて

創立115年。横浜平沼高等学校は、かつて県下一の才媛学校と言われ、現在でも神奈川県を代表する名門校の1つです。その伝統校において、勉学と部活動の活性化を通じて“元気な生徒づくり”に取り組む小野先生の熱意が印象的でした。

学校紹介

神奈川県立横浜平沼高等学校
URL : http://www.yokohamahiranuma-h.pen-kanagawa.ed.jp/
住所 : 横浜市西区岡野1-5-8
TEL : 045-313-9200

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